【第110回 2018.01.29】

「一歩踏み出す」を支える仕事

投稿者:高柳 渓一(平成17年 人文学部 法学科卒)

 私は、浜松市役所の職員として働いています。浜松市に限らず、自治体の役所には様々な課・仕事があり、"何でも屋"とも言われますが、その中で、現在私は、生活保護の仕事(いわゆるケースワーカー)をしています。
これをご覧の方の中には、生活保護に関心がある、という方も少なからずいらっしゃると思いますが、普段あまり考えたことがない、という方も多いのではないかと思います。この機会にこの場をお借りして、私たち生活保護ケースワーカーの仕事について、僅かですがお伝えしたいと思います。

 生活保護は、憲法25条にある「健康で文化的な最低限度の生活」を保障するものとして定められている制度です。中心となるのは、お金(保護費)を支給すること。仕事がない、年金の額が少ない、など手元の収入が基準額を下回る場合に、下回る分の金額を算定し、保護費として支給する、というのが基本的な枠組です。
 しかし、私たちの仕事は、お金を出して終わり、というものではありません。あくまで一般的な傾向ですが、生活保護を必要とする方は、付随して生活上の様々な課題を抱えており、独力での解決が難しく支援を必要とする場合が少なくありません。そのための支援活動(いわゆるケースワーク)が、私たちの不可欠な仕事として存在しているのです。


 ほんの一例ですが…、
・仕事を探しているがなかなか見つからない、と言っている方に対して、一緒に求人誌を見て頑張れそうな仕事を探し、その場で応募の電話をかけてみる。
・独居生活が目に見えて大変になってきたと思われる方に病院受診を勧め、病院に連れていく。(→入院になったり、介護利用につながったり…)
・長期入院していた方が退院する見通しとなったが、帰る家がないため、一緒に不動産屋を訪ねて物件を探す。
このように、それぞれの受給者の方の実情に応じて様々な仕事を行っています。
限られた時間の中で、自分の担当する方々と向き合うわけですが、もっと時間があったらこんな支援もしたいのに…、と、もどかしく思うことの連続です。それでも、自分が少しでも関わることで、その方が一歩でも前へ進むことにつながったら、という思いを持って取り組んでいます。


 日頃、ネットで生活保護関連の情報を検索すると、様々な記事・投稿を目にします。感じ方は人それぞれだとは思いますが、どうしてもネガティブな視点で見られがちな世界だと思います。それでも、私が普段この仕事をしていて感じるのは、貧困は決して他人ゴトではない、ということ。日頃から私たち一人一人が、貧困や生活保護といった社会の課題に関心を持ち、自分ゴトとして考えてみること。それが、誰かが仮に貧困に陥ったとしても、生活保護を始めとした社会資源に適切にアクセスでき、活用して新たな一歩を踏み出すことのしやすい社会につながるのではないか…。そんなことを考えています。

 ■H27.12に、人文社会科学部の同窓会連携講座でも、市役所の仕事や生活保護の話題について話させていただきました。よろしければこちらもご覧ください。

 http://e-gaku.org/modules/bulletin/index.php?page=article&storyid=518


 ■生活保護の現場をリアルに感じることのできる本として、次の2つを紹介させていただきます。
 よろしければぜひご一読ください。
・柏木ハルコ『健康で文化的な最低限度の生活』小学館
・役所てつや・先崎綜一『フクシノヒト こちら福祉課保護係』文芸社


リレーエッセイへのコメントを募集しています。詳しくはこちらをご覧ください。

▲このページのトップへ